その未来




































場所は高速の検問所。





「は?嘘だろ?」
「今データを照会したんだけどねえ、おたくの情報が全然出てこないんですわ」


警察官が慌ただしく動き回るちょっとした喧騒の中で、一人の男が検問にひっかかり足止めを食らっていた。
何か問題が起きたことを察したのか、他の警察官が2、3人こっちに視線をよこした。
が、すぐに自分の仕事を再開する。そんなことは日常茶飯事だといわんばかりの態度だった。


「そんなはず・・」
「しかし事実は事実だからねえ。この免許証も偽造じゃなさそうだしなあ・・
どういうことなのか今本部に問い合わせてるとこだから、
しばらくここで待ってもらうことになると思うね」
「そんなバカな!俺今日6時までに荷物届けないといけないんですよ!」
男はついさっきまで乗っていたトラックを見やって言う。焦りがありありと顔に浮かんでいる。
対する警察官・石井は呆れ顔で返す。
「あんたねえ・・急いでるのは分かるけどスピードオーバーはいかんでしょう。しかも30キロオーバー。
わかってる?今まで無事故でもこれじゃ免停寸前よ?」
言われて男はうっ、と声を詰まらせた。免停、の言葉に反応したらしい。
そして自分の置かれている立場を理解したのか、不満そうな表情ながらも大人しくなった。

石井は内心やれやれ・・とため息をつくともう一度その免許証に目を落とした。



浅子庸介。1980年8月12日生まれ。
多少仏頂顔な写真以外は、普通の免許証の記載となんら変わっているところはない。

「職業は運送屋ね?」
「・・そうです。派遣だけど」
またか。最近は運送業まで派遣ばっかりだなと石井は思う。
今日の午前中にひっかかった20代の運転手もそうだった。こないだ飲酒運転でひっかかった運送屋もそうだ。

「あー、このまま身元確認できないとなると身内の方に直接確認させてもらうことになると思うから。
20歳以上の親兄弟だったら誰でもいいよ。ここに連絡先書いて」
慣れた手つきで違反切符を切りながら説明を始めると、浅子はなんとも言えない苦い顔で、
しかし黙って話を聞いていた。
「で。誰に来てもらう?」
「・・親は四国の実家なんで。俺の妹でもいいすか?
名前は浅子亜矢奈」

石井は携帯(支給されたものだ)をとりだした。言われた番号にかけたがすぐには繋がらない。

あとでかけ直すか。

「お兄さん、ちょっとこのまま待っててくださいよ。
まあないと思うけど逃げたりしないようにね。あっちゅう間に捕まるから」
検問所がだいぶ騒がしくなってきた。どうやら立て続けに次々と検問にかかった車で軽い渋滞が起きているらしい。







電話を切ると、石井は車両の整理に当たるために走り出した。