なくし物宅配便



















屑のようにまるめて
捨てるごみばこはないものか

ふくらみ続けるきもちを
ダーツの矢でつき刺してはれつさせられないものか

涙でぬれていてもかまわないような
高温のねつで焼き尽くせないものか


そう 屑のように丸めて
ただそこにある悲しみを
食べてしまえるほどの勇気はあるだろうか







それは、わたしが母に頼まれて為替を買いに行ったときに見つけたのだ。

「112番のお客様、カウンターまでお越しください」
親に頼まれてお使いに行くなんて、18歳にもなってかなり恥ずかしいことを引き受けてしまった。『明日どうしても必要なんだけど、お母さんパートあるのよ』って言われなければたぶん断っていただろう。
郵便局に来るのも何年ぶりかなあ、、、さっさと終わらせて買い物行こう。
「えー、、、『定額小為替』、を1万2千円分ください」
為替にもいろんな種類があるらしかった。母に言われるまで知らなかったけど。
「少々お待ちくださいねー」
窓口のおばちゃんが為替を探すのに手間取っているようだった。ので、暇なわたしは局内のポスターをぼんやり眺めることにした。控えめな宣伝文句が、控えめな字体で綴られている。

「、、、?」
その中にひとつ、
『新しいサービス始めました!』
の大きめな文字の下に、わたしは変なものを発見した。
「、、、なくし物宅配便。」
なにこれ?
「お待たせしてすいませんね。こちらが定額小為替になりますので、金額分あるかお確かめください。、、、ああ、それ気になります?よかったらパンフレットもありますけど、、」
「あ、いやいいです。」
「そうですか?それじゃ、ありがとうございましたー。、、次は113番のお客様―」
なんだろあれ。結構目立たないところに貼ってあったけど。なんだか、ドラえもんの秘密道具の名前みたいだ。
興味は尽きなかったが、わたしはそのまま郵便局を出た。


このときはこれで終わらせることができていた。



「ただいまー。」
「あらおかえり。なんだか遅かったけど、為替買ってきてくれた?」
家に帰ると、母がすでに帰ってきて食器を片していた。
「なんかいろいろあったけど、『定額』の小為替でいいんでしょ?」
「そうよー。あんたが行ったおかげでお母さん助かったわ。オークションて、時々小為替じゃないとダメってときがあるのよねえ。またあったらあんたに頼もうかしら」
「、、、今度から手数料取るよ」
「いいじゃない。暇なときにしか頼んだりしないんだから」
このままだと面倒を押し付けられそうな空気だった。さっさと自分の部屋に引き上げることにしよう。
階段を2,3段上ったところで、わたしは少し聞きたかったことを思い出した。

「お母さーん」
「何?」
「『なくしもの宅配便』って知ってる?郵便局のサービスらしいんだけど、、、」
よく郵便局を使う母なら知ってるかもと期待したが、
「なによ、それ?どういう宅配便なの?」
「わたしもよくわかんないけど、、、」
「なくしたものを探して送り返してくれたりするんじゃないの?
だとしたらあんたにぴったりねえ。ほんとネックレスとかすぐなくすんだから、、、」
「お母さんもでしょ」






実はそろそろ期末試験の3日前だったりする。
「テスト前の3日間くらい休みにしてくれないかな…」
「なんかさ、テスト前って急に現実逃避したくなんない?」
はあー、と長いため息をついて机に突っ伏した彼女は私の親友である。
「や、まるみのほうが私より出来るんだからいいじゃん」
私的には、一夜漬けでギリギリどうにかなっている彼女がうらやましくて仕方ない。
するとまるみはふ、となぜか遠い目になった。
「今まではよかったんだよー成田先生が優しく教えてくれたからさ…。でも転任しちゃった からもう絶望的だわ〜きのうもマンガ読み漁ってたしさあ」
「何読んだの?」
「『まほうを信じるかい?』ってやつ」
「あ、それ読んだ!あれは私も泣いたよ」
「へへールイ君かっこいいよねー。ってあ、」
「ん?」

突然まるみは起き上がると、いぶかしげに私のほうを見てきた。自然と向き合うかたちになる。
「千色」
「はい?」
名前呼ばれたよ。
「あんたあたしがかなり前に貸したマンガまだ持ってるでしょ?」
「…うっ」
「今度から延滞料取るよ?」
「いや、それはちょっと今お財布が財政難だからやめてください……」
「ふーん。まあ延滞料は半分冗談だけど、とっとと探して持ってきてねー。あのマンガ、誰かに次貸してくれって言われてた気がするんだよ」
「はーい……」




「うーん」
さして長くもない学校からの帰り道、まるみと別れた後でわたしは昼間の会話を思い出していた。
返事はしたものの、実は全然心当たりがなかったりする。
うーん。もうテスト3日前だけど、2日前とか直前になったら余計探す気失せるし…
「…探すなら今日か」
探し物してればテスト勉強からちょこっと逃れられるしね。
「でもめんどくさー……」
まるみに聞かれたら怒られそうだな。


「ただいまー」
10分の登下校タイムが終わって家に着くと、玄関に荷物が届いていた。
と同時に、2階から最近生意気になってきた弟がのっそり降りてきた。
「あ〜ねえちゃんか」
「なにその残念そうな感想」
「マンガ買ってきてもらおうと思ってたのに忘れちゃったよー。くそ…」
「…あっそ」
かなりどうでもいい。
「あーあと姉ちゃんの友達宛の宅急便がなんか届いてた。たぶん間違いだけど」
それだけ言うとリビングへ行ってしまった。最近やたら食欲旺盛で食べまくっているので、夕食前におやつでもおなかに入れるつもりだろう。全然運動してないから体重も増えてるようにしか見えないが。
わたしはとりあえず眼前の荷物に意識を戻す。





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